八百鮮の戦略
安売りの祭り。インパクトの祭り。大量の祭り。
八百鮮の売り場では、
頻繁に「祭り」が開催されているとか…?
はたして、普通では考えられない
仕入れの裏側にひそむ戦略とは。
実際に得られた結果とあわせてご紹介します。
この蟹、見事に常軌を逸している─。
ある日、店頭に並んだのは「何を食べて育ったらこんなに大きくなるんだ?」と言わざるを得ない特大のタラバガニでした。2歳児の身長ほどはありそうなこのカニの重さは10kg。平均の3倍以上を誇る怪物タラバガニを10万円で売り出した、その戦略とは?
ある日、八百鮮の精肉部に事件が起こりました。肉をスライスする「スライサー」が故障したのです。このままでは、全くスライスされていないブロック肉や巨大なステーキ肉をそのまま売り場に並べるしかない。営業時間開始までは残りわずか。「仕方ない、全部ステーキ肉として売るぞ!!」社員の一言で、戦いが始まりました。
時に、八百鮮には「計算」が通用しない瞬間があります。ある社員が、国産うなぎの蒲焼600尾を仕入れた時もそう。市場での仕入れ値は1600円。通常、どれだけ安くても2000円で売るのが常識の範囲内です。しかしその日、国産うなぎについた値札は「1000円」。売れば売るほど赤字になる、型破りな値付けの真相とは?
松茸は山に生える。が、松茸が山盛りになってもいいじゃないか。ということで、八百鮮の社員が仕入れたのは国産松茸100パックでした。平均的に考えると1パック1万円を超えようかという高級松茸ですが、なんと売り出した価格は3000円。明らかに常識を外れた値付けの裏には、何が…?
八百屋が野菜以外を売って、何が悪いのか─。創業からこれまで、野菜に鮮魚、精肉に果物、加工食品まで数多くの商品を取り扱ってきた八百鮮が、ある日店頭に並べたのは「初恋ぽんず」。
なんとこれ、八百鮮がグループ会社の「たこ一」と共同で製造したオリジナル商品です。なぜ八百屋がポン酢を作るのか?その真相やいかに。
菊、菜の花、シソの穂…。ある日、八百鮮に「花束」が売り出されました。これらは全て「食用花(エディブルフラワー)」と呼ばれるもの。一般的な食卓には馴染みのない、高級感にあふれる「彩り要員」ですが、はたしてどのような狙いで仕入れられたのでしょうか…?
八百鮮の精肉部が考える、春の風物詩。それは「桜」ではなく「牛タン」でした。ある日、「牛タン、先着500本で特売してます!」と仲買人さんに案内された社員。なんと、ノータイムで「全部買います!」とフルベット。普通の店では捌ききれない量の牛タンを仕入れ、果たして売り切れるのでしょうか…!?
- 仕入れの戦略
- 「10万円のタラバガニがすぐに売れるわけないじゃないですか!」当時を振り返って笑うのは、仕入れを担当した社員。事実、店舗の一番目立つ場所に並べられた巨大なタラバガニを見て、写真を撮るお客様こそたくさんいたものの、それを買おうとするお客様は一人もいませんでした。「でもね、大きなカニと『¥100,000』という値札があれば、それだけでワクワクしてもらえるでしょう。『八百鮮に来れば何かがある』と思ってもらうための広告塔ですよ」。
- 得られた結果
- 結局、巨大タラバガニは10万円で売れませんでした。しかし、15時を過ぎ値札を「¥50,000」に書き換えた瞬間「あのカニを売ってくれ」というお客様が現れたのです。それは、近所で海鮮丼の専門店を営む店主。「もし巨大ガニを仕入れたら、あの店主の方は喜んで買っていくんじゃないか…?」市場でうっすらと頭に浮かべていた、そのお客様が声をかけてくれたのです。多くのお客様に八百鮮という店の面白さを焼き付けたこと、そして常連のお客様の期待に応えたことは何よりも大きな成果だったことでしょう。
- 仕入れの戦略
- 予期せぬ機械の故障で、ブロック肉をそのまま売り出すことになった社員。しかし、店を開ける以上は売り上げを上げなくてはなりません。営業直前に値札を書き換え、売り場一面をスライス肉より格安なブロック肉で埋め尽くすことに。「これ、焼肉にピッタリっすよ!」「これでローストビーフつくったら美味いっす!」と怒涛のセールストークを開始し、ピンチをイベントに変えたのです。
- 得られた結果
- 「なぜか、飛ぶように売れていきました」ステーキ肉騒動は、社員にも原因がわからないほどの大成功を収めました。午後にはスライサーが直り通常通りの営業に戻ったものの、その日だけで平均の2倍近くとなる120万円の売り上げを叩き出したのです。10kgのブロック肉にも需要がある。そう学んだ次の日から、ブロック肉やステーキ肉の売り場面積を広げるように。今や、それまでスライスのみで取り扱っていた肩ロースもブロック肉として売り出すようになり、主軸の商品となっています。
- 仕入れの戦略
- 「国産うなぎを1000円で売る店なんてどこを探してもない」。それが発想の原点でした。土用の丑の日に合わせて国産うなぎをどこよりも安く売ればお店のことを覚えてもらえて、それ以外の日にも来店してもらえるはず。それこそが「戦略」だったのです。仲買人さんには「国産うなぎをそんな価格で売るなんて、大阪中の国産うなぎが価格崩壊を起こすからやめてくれ」と止められたそう。しかし「インパクトを生み出したい」という欲望には抗えず、「お願いです!今日だけ許してください!!」と強行したのです。
- 得られた結果
- その日春日出店鮮魚部は25万円の赤字を叩き出し、会社からは「ナイス!!」という称賛の嵐が贈られました。「突き抜ける」ことをよしとする社風だからこそ、目の前の損得にはとらわれないのです。その日仕入れた600尾の鰻は、開店4時間で即完売。次の日に来店したお客様からは「そんな安く売るんやったら早よ言うてや!」「来年も絶対やってな!」という反応が連発。見事「八百鮮=安い」のイメージを樹立することで、お客様の脳に「八百鮮」の名前を刻むことができました。「国産うなぎの大群」は、来年もまた店にやってくるとか。
- 仕入れの戦略
- 「季節を楽しんでもらうのが八百屋の役目」。それが、松茸を仕入れた社員のポリシーでした。では、どうすべきか。一つの答えが「特売」でした。通常、旬の食材は高めに売るのが小売店の常識。しかし、その逆方向に突き抜けることでインパクトを残せると考えたのです。そこで、前日から関係の深い仲買人さんに「松茸を3000円で売り出したいので、同じように僕に3000円で売ってくれませんか?」と交渉。「今回だけだからな!」という言葉を引き出し、見事格安で松茸を仕入れて原価で販売することに成功したのです。
- 得られた結果
- あまりの安売りに「とりあえず」と手に取るお客様も続出。献立に松茸を入れるなんてまったく考えていなかったにもかかわらず、一度に3パックも買っていくお客様も生まれました。そして何より、この仕入れを機に八百鮮の名が近所に知れ渡り、直接食材を買いにくる飲食店の経営者様も増加。普段から仲買人さんに「お願い」できる関係性を築いていたからこそ、主婦にとどまらず街中に広まる「広告塔」を仕入れることができたのです。
- 仕入れの戦略
- 「忘れられない初恋の、ときめく酸味を味わってほしい」という想いから名付けられた『初恋ぽんず』。目指したのは「魚を一番美味しく食べられるポン酢」でした。創業から鮮魚を取り扱う八百鮮。当然、魚にかける調味料にもこだわり抜かなくてはいけない。だからこそ鍋にかけてもしっかり香る、すだちの強いポン酢を開発したのです。「人気商品と肩を並べるクオリティと、どこよりも安い価格設定を両立させて市場を獲りにいく」その戦略を軸に、市場No.1商品よりも大幅に安い「500円」という価格で攻めに出ました。
- 得られた結果
- 社内での試食を入念に重ね、お正月にも社員が集まって試食した渾身の商品。満を持して発売した結果、見事売れ行きは好調に。初恋ぽんずをタレとして置く焼肉屋さんも現れたといいます。まだ市場No.1への道のりは遠いが、一日で1000個以上の売り上げを記録しているこの商品。ここからブランド力を強めることで、さらなる高みへ登っていきます。
- 仕入れの戦略
- 「最初から、一般のお客様に買っていってもらえるとは思ってませんでした」当時を振り返り、食用花を仕入れた社員は言います。八百鮮には、主婦や個人客だけではなく飲食店を営む店主も来店する。その中で、近ごろ日本料理の需要が高まっていることを見抜いていました。繊細な彩りを大切にする日本料亭のお客様から買ってもらうことを狙い、マイナーな食用花を仕入れたのです。
- 得られた結果
- それぞれの花が、どんな料理に使われるのか。調理をする際は、どのように味付けをされるのか。仲買人さんから教えてもらった情報をびっしりとメモに取り店頭に並べた結果、見事に売れ行きは好調に。食用花の仕入れを聞きつけ、これまで八百鮮に来店したことのなかった店の店主まで店を訪れるようになりました。売り場に彩りを加えることで一般のお客様にも好評だった上、きちんと売り上げも作り上げた仕入れとなったのです。
- 仕入れの戦略
- 春といえば出会いの季節。出会いの季節といえばバーベキューだ!と直感した当時の社員。「お花見から新歓まで、いろいろな場所でバーベキューが開催される時期だからこそ、牛タン1本を丸ごと売れば盛り上がるんじゃないか?」。そう考え、「ヤオセン春のタン祭り」というギリギリ(?)のキャッチコピーを掲げて特売を開始。牛タンを丸一本売るような精肉店は近所にない、という情報も押さえていたことも勝負に出た理由のひとつでした。
- 得られた結果
- 相場の半額に近い「100g298円」で500本の牛タンを売り出した結果、「タン祭り」は見事に大盛況。4日という超スピードですべての在庫を売り切ったのです。飲食店や団体の方のお客様が増えたのはもちろん、計算外だったのは家族連れの方が続々と牛タンをお求めになったこと。「普段は手の出ない商品でも、お祭り騒ぎにしてしまえばつい買っちゃうんでしょうね!」そう振り返る社員。この「祭り」以来、牛タンは商品ラインナップの年中レギュラー入り。「タン祭り」は、今や毎年恒例の行事になったといいます。